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2040年。未来の地域と地域医療を考える

  • 執筆者の写真: 佳嗣 廣川
    佳嗣 廣川
  • 6月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月12日


氷山の下に広がる課題と、地域医療のこれからを一緒に考える



地域の診療所や病院で、今日も変わらず患者さんが訪れ、診察を受けていく。

日々の診療風景を見ていると、一見、地域医療は機能しているように思えるかもしれません。

けれどふと立ち止まってみると、見えていないところにこそ、私たちが目を向けるべき課題があるのではないか──

そんな問いが浮かんできます。


「氷山の一角モデル」という言葉があります。

私たちが目にしている現象や問題は、実は全体のほんの一部で、

その下にはもっと大きく、複雑で、気づかれていない構造が横たわっているという考え方です。


今、地域医療においても、この“海の下”の部分が、確実に広がり、深まりつつあるように感じています。




■ すべての地域が、将来的に“生活の維持が難しくなる”としたら?



リクルート社が発表した「生活維持サービス充足率」という未来予測があります。 https://www.works-i.com/research/project/futureofwork/simulation/detail002.html

この指標によれば、将来ほぼすべての自治体で、買い物・移動・医療・介護など、暮らしに欠かせないサービスの何かしらが不足する可能性があると言われています。


この結果を、どう受け止めればいいのでしょうか?

医療や介護の現場だけでなく、地域そのものが、今後どうやって日常を支えていけるのか。

今はまだ“なんとかなっている”ように見えるかもしれませんが、5年後、10年後も同じ状態が続くのでしょうか。


地方に限った話ではありません。

都市部でも、高齢者の単身世帯が増え、家族の支援を受けにくい状況が広がっています。

「医療にアクセスできる人」は減っていくのではないか──そんな問いが浮かびます。




■ 通えない、動けない。交通の縮小と暮らしの変化



たとえば、病院に行きたくても、バスが走っていない。

タクシーもつかまらず、駅までの距離は遠い。

家族が同居していれば送ってもらえるかもしれませんが、それも難しい世帯が増えてきています。


運転免許を返納した高齢者の暮らしは、その日から大きく変わります。

「移動できない」という状況が、「医療にアクセスできない」という状態につながってしまう。

これは想像以上に切実な課題ではないでしょうか。


誰もが、いつでも、必要なときに医療につながれる地域をつくるには、何が必要なのでしょう。

医療機関の中だけでは解決できないからこそ、広く地域全体で考えていくことが求められているように思います。




■ これからは「在宅」が医療の舞台になる時代?



2025年以降、団塊の世代が後期高齢者となり、地域の医療需要はこれまで以上に高まるといわれています。

そのとき、医療機関に来られる人は、どれくらいいるのでしょうか?


高齢化が進み、慢性疾患や身体的制約を抱える人が増えれば、「通院」ではなく「在宅」での対応が中心になっていくのかもしれません。

けれど、在宅医療や訪問看護の体制は、どの地域でも十分に整っているとは言えません。


「医療が暮らしの中に届く」とは、どういうことなのでしょう?

どうすれば、医療者と患者が“会わなくてもつながっていられる関係”を築けるのでしょうか。




■ 見えないニーズに気づける仕組みはあるのか?



見えないところで苦しんでいる人、不安を抱えている人。

「誰かに相談したいけれど、どうしていいか分からない」

「病院に行くほどではないけれど、ちょっと気になる」

そうした“まだ声になっていない声”を拾える仕組みが、これからの医療に必要なのではないかと感じます。


たとえば、非同期で日々の体調を記録できるアプリや、暮らしの中でゆるやかに医療とつながれる仕組みがあれば、

来院できない人の「ゆらぎ」にも気づくことができるかもしれません。


AIの力を使って「気づき」を補助し、必要なタイミングで医療がそっと手を差し伸べる──

そんなアプローチが、医療と暮らしのあいだに“新しい関係性”を生み出す可能性もあります。




■ 海の下を見つめることで、地域にあたたかさを取り戻せるかもしれない



これからの地域医療は、“目に見える患者さんだけ”を診ていては立ちゆかなくなるのかもしれません。

けれど、そう考えること自体が悲観的な未来を意味するのではなく、私たちが“まだ見えていないこと”に気づくチャンスでもあるように思います。


一人ひとりの「見えない困りごと」に、どんな風に寄り添えるか。

医療がどんな形で、暮らしの中に存在できるか。

地域と医療が、どうすれば“支え合う関係”になれるのか。


答えはすぐには出ないかもしれません。

でも、こうした問いを持ち続けることが、これからの地域医療にとってとても大切なことではないでしょうか。


海の下にあるものに目を向ける。

そこにこそ、地域をあたたかくするためのヒントがあるのではないかと考えます。

 
 
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