患者と医療者、ふたりのあいだにある静かなストレス
- 佳嗣 廣川
- 6月12日
- 読了時間: 4分

「この前の診察で、あれを聞こうと思っていたのに、忘れてしまった」
「気になることがあったけど、診察中はうまく言葉にできなかった」
「患者さんの表情が気になったけど、確認する時間がなかった」
医療の現場では、こうした“すれ違い”がとてもよく起こります。
そして、それはどちらか一方が悪いという話ではありません。
むしろ、お互いが気にかけているのに、「伝えるタイミングがない」「聴ける余裕がない」──そんな小さな“空白”の積み重ねが、心の中にじわじわとストレスをつくっているのです。
冒頭の図にあるように、「患者さんのストレス度」と「医療スタッフの気がかり」は、時間の経過とともにじわじわと開いていきます。
■ 時間が経つほど、「言い出せない」は「忘れる」に変わっていく
診察から時間が経つにつれ、患者さんは不安を抱えたまま日常生活を過ごすことになります。
「ちょっと気になるこの症状、大丈夫だろうか」
「前に言われた生活習慣のこと、守れていないけど怒られるかな」
「最近ちょっと気分が落ちてるけど、こんなこと相談していいのかな」
こうした“気になる気持ち”は、次第に自分の中で解決されずに蓄積されていきます。
でも、いざ次の受診のタイミングになると、
「なんだかんだ忘れてしまった」
「いまさら言い出しづらい」
そんな状態になってしまうことも少なくありません。
図の中ではこの状態が、“言うのを忘れる”というラインで表されています。
これはつまり、患者さん自身が「気にしていたことを放置せざるを得ないまま時間が過ぎてしまった」という、静かなストレスの象徴なのです。
■ 医療スタッフも、ずっと「気にかけている」
一方、医療者側も「一度診たら終わり」と思っているわけではありません。
家庭医や看護師、リハビリスタッフの多くは、「あの患者さん、その後どうしてるかな」と日々考えています。
でも、医療現場は忙しい。
限られた診療時間、次々と変わる患者、書類業務の山。
そんな中で、“あの人のことをもう一歩踏み込んで聴く”余裕が、どうしても持てなくなってしまう。
図の下のラインには、そんな医療者の姿が描かれています。
「気になってはいるけれど、確認する機会がない」
その小さなもどかしさが、じわじわと溜まっていく。
そして、患者と医療者の間にある「GAP(ギャップ)」が、日に日に広がっていくのです。
■ 空白が生むのは“情報の欠如”ではなく“関係性の揺らぎ”
この「空白期間」という言葉は、単なる時間的なスパンを意味するだけではありません。
それは、患者と医療者の関係性が一時的に“切れてしまっている状態”でもあります。
誰にも相談できないまま、日々を過ごす患者さん
変化を見逃すかもしれないという不安を抱える医療スタッフ
このギャップは、単なる「伝え漏れ」や「情報不足」ではなく、
“お互いに気にしていたのに、すれ違ってしまった”という、人と人との関係性の揺らぎなのだと思います。
■ その空白に、そっと寄り添う存在があったら
私たちは、この“空白のストレス”をどうやって埋めていけばいいのでしょうか。
大切なのは、「空白を埋めなきゃ」と焦ることではなく、
空白のあいだに“そっと寄り添ってくれる存在”を設けることなのかもしれません。
たとえば、PrimaryTouchのようなエージェントが、日々の暮らしの中で小さな問いかけをする。
「最近よく眠れていますか?」
「ご飯はおいしく食べられていますか?」
「気になることがあれば、ここで残しておいてくださいね」
こうした“非同期のコミュニケーション”があるだけで、患者さんは「次の診察で言わなきゃ」と一人で抱え込まなくてすむようになります。
医療者も「あの人、最近こういう変化があったみたい」と事前に気づくことができる。
そのことで、関係性が切れずにつながり続けていくのです。
■ 「あのとき言えなかった」が減るだけで、医療はずっとやさしくなる
この仕組みは決して、“完璧にすべてをカバーする”ためのものではありません。
むしろ、「言えなかった」「気づけなかった」を少しでも減らすことで、
患者さんも医療スタッフも、ほんの少し心が軽くなる──
そんなやさしい設計なのだと思います。
医療は、本来“関係性の上に成り立つ営み”です。
診察の場だけでなく、その前後の“間(ま)”にこそ、支え合う余地がある。
その間を、もう少しだけ丁寧に扱ってみる。
それだけで、医療はもっと自然に、やさしく、人の暮らしに寄り添えるようになるはずです。