不安が募る空白期間のアプローチ
- 佳嗣 廣川
- 6月1日
- 読了時間: 3分
更新日:6月12日
「診察が終わったあと、ふと不安になることがある」
「次の受診まで、体調が気になっても相談しづらい」
「夜中に症状が出たけれど、朝になるまで我慢した」
──そんな経験はないでしょうか。
これらは、診察と診察の“あいだ”に生まれる、見落とされがちな体調や感情のゆらぎです。私たちはこの期間を「医療の空白期間」と呼びます。これは医療機関と患者との接点がない時間、つまり医療者の目が届かず、患者自身も相談できる場を持たない“孤立した時間帯”のことを指しています。
現代の医療は、高度化・専門化が進む一方で、「日常」に入り込むことの難しさを抱えています。地域においては医療資源の偏在、かかりつけ医の人手不足、高齢者の通院困難などが重なり、いわば“医療の手が届きにくい時間”がますます増えています。
■ 医療の空白期間がもたらすリスク
この空白期間の問題は、単に「不便である」というだけではありません。たとえば、軽い症状を見過ごしてしまい、数日後には救急搬送になるようなケースもあります。あるいは、在宅療養中の高齢者が「もう少し様子を見よう」と判断した結果、状態が悪化してしまうことも。
こうした事態は、医療の現場にとっても患者にとっても「もっと早く手を打てていれば」という後悔につながります。そして、結果的には医療費の増大や、地域の医療資源の圧迫にもつながっていきます。
しかし、空白期間をすべて医師や看護師がカバーするのは現実的ではありません。人的リソースにも限界があります。では、どうすればよいのでしょうか?
■ PrimaryTouchが目指す“空白を満たす”医療のかたち
私たちPrimaryTouchは、AIエージェントを活用してこの“空白期間”にやさしく寄り添う仕組みをつくっています。
たとえば、日々の体調のちょっとした変化や、気になることを、アプリや音声チャットで記録。感情のゆらぎや変調の兆しをAIが読み取り、必要に応じてかかりつけ医や訪問看護師に情報を伝えます。
これにより、医療機関は「気になる方に、そっと連絡を取る」という新しいケアが可能になります。診察の外でもつながることで、患者さん自身も「見守られている」という安心感を得られるのです。
さらに、診察前に問診AIで事前ヒアリングを行えば、医師は限られた診療時間内でも本質的な対話に集中できます。診察後には内容の要約をAIが作成し、患者さんやご家族に共有することも可能です。
■ 暮らしのなかに医療を取り戻す
このような非同期型・持続型のサポートは、医療が「診る」だけの機能から、「共に見守る」存在へと進化する可能性を示しています。医療が日常のなかに溶け込むことで、受診行動のハードルを下げ、結果的に医療の早期介入や重症化予防にもつながります。
そして何より、この仕組みは医療者側の業務効率化にも貢献します。AIがヒアリングや記録をサポートすることで、医師や看護師は「人にしかできないケア」──つまり目の前の人としっかり向き合う時間を取り戻せるのです。
■ 医療の未来は、“空白”をどう扱うかにかかっている
少子高齢化と医療需要のピークアウトを迎える日本。地域医療の持続性を考えるうえで、「空白期間」に対する新しい視点は避けて通れません。
PrimaryTouchは、医療の余白にこそ、人の想いが動き出す瞬間があると信じています。その声なき声に気づき、そっと寄り添う──それが私たちの目指す未来の医療です。
これからの医療は、診察室の中だけで完結しない。
暮らしのなかに医療を取り戻すための、小さな手がかりを。
その第一歩を、私たちはこの“空白”へのアプローチから始めています。